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2019年12月26日木曜日

高知能者のコミュニケーショントラブル2:第4章 第6節 原因の特定と治療可能性


誠に申し訳ございません。

m(_ _)m

発売直後(2019年12月27日)のバージョンには、この節が含まれていません。

そのときまでは世の中で言われているように「自閉症の治療は不可能」という前提で書いていました。しかし「自閉症の科学」シリーズを読み、最近では急速に原因究明が進んで自閉症に関連する多数の遺伝子に影響を及ぼす分子が見つかったところまで来ていることを知りました。
 ということで第9章第7節「完全に治せないなら前を向くしかない」を削除し、代わりにこの節を挿入してします。

せっかく発売直後に買っていただいたのに、誠に申し訳ありませんでした。



第4章 残酷な「天の配剤」:併存疾患と依存症のリスク
 第6節 原因の特定と治療可能性


 多くの本やサイトには「現代の医学では自閉症の根本原因を治療することはできない」と書いてあります。確かに少し前までは、100以上の遺伝子が関係するとなればどうやって治せば良いのか見当もつかなかったことでしょう。

 たとえそうであっても症状が軽い「プチ自閉」「隠れアスペ」ぐらいの人々には問題になりません。むしろ開き直って、自分の特性を生かすことを考えれば良いのです。

 一方で重篤な症状を抱える本人や家族は、絶望的な気持ちから抜け出すことができなかったのではないかと思います。

 しかし最近では研究が急ピッチで進み、治療に可能性を見出すような記事が散見されるようになりました。
 
将来的には治せるようになるかもしれない 

という期待が高まりつつあるのです。

 私が特に面白いと思ったのは、オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ)代表理事の西川伸一さんが連載していた「自閉症の科学」という記事でした。私はこれをYahoo!JAPAN(個人)で目にしたのですが、今ではAASJのウェブサイトから読むことができます。参考資料ウェブページにもリンクを貼っておきますのでご参照ください。どの記事も興味深いのですが、ここではごく一部だけかいつまんでご紹介します。

【抜粋部分の概要】


  • 自閉症は主に遺伝によるもので、発生時(母親の胎内にいるとき)と発達時期(4歳ぐらいまで)の脳回路の形成の異常として発生することはほぼ間違いない。関係する遺伝子は100以上ある。発生過程の大きな変化によるものは、発症までのメカニズムの理解も進んでいる。
     
  • 遺伝的要因のほかにも母体がさらされている低栄養、アルコール、感染、発熱、炎症、そして神経刺激物質(治療薬や農薬を含むあらゆる神経刺激物質)など様々な外的要因によっても自閉症のリスクは高まる。
     
  • たとえば風邪やインフルエンザなどで妊婦さんに炎症が起こってしまうと、胎児の脳の発達に影響して自閉症などの発症率が上がる。妊娠のある時期に炎症が起こると胎児のワーキングメモリが低くなる傾向がある。
     
  • セロトニンやオキシトシンの分泌を増加させることで、一過性ではあるものの社会性を若干回復させることができそうだ。
     
  • 初めてASDと自閉症リスク遺伝子セットを結合している分子の手がかりが見つかった。自閉症リスク遺伝子として特定された遺伝子のmRNAの多くがCPEB4と結合する。CPEB4 mRNAの中の、4番目のエクソンが欠損しているmRNAの比率が、突発性ASDでは高いことが明らかになった
     

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以下、抜粋
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自閉症の科学2 遺伝的自閉症の治療可能性 より


 (略)自閉症は、一卵性双生児での発症の一致率が高く、遺伝性があることは間違いがない。しかしこれまで強くASDと関係があることが示された遺伝子は100種類近くに上り、また弱い相関は倍以上の遺伝子で見つかっている。個々の例は、これら何十もの遺伝子の小さな違いが組み合わさって発症に関わっていると考えられる。

 (略)それでも、特定の遺伝子の突然変異で、発生過程の大きな変化が起こってしまい、その結果としてASDが起こる場合がある。このうち最も研究が進んでいるのが、Fragile X、Rett症候群、MECP2重複症で、ASD発症までのメカニズムの理解も進んでいる。

 (略)この研究では、FXS患者さんからiPSを作成し、この細胞に目的の場所を標識するガイドRNAとCas9-Tet1を導入することで、見事に遺伝子自体を全く変化させることなく、FMR1のCGG繰り返し配列のメチル基を外し、遺伝子の機能を復元することに成功している。この結果、FMR1遺伝子は活動を始め、正常な神経細胞に分化することができる。

 以上の結果から、FXSの変異でなぜFMR1遺伝子の機能がなくなるのか、またそれを治療するにはどうすればいいのかの方法が確立された。(略)



自閉症の科学3: 幼児期の脳波検査の意味 より


 (略)自閉症スペクトラム(ASD)が主に発生時と発達時期の脳回路の形成の異常として発生することはほぼ間違いのない事実と考えられるようになっている。原因として複雑な遺伝子変化の組み合わせによる遺伝的要因が大きいが、母体がさらされている低栄養、アルコール、感染、発熱、炎症、そして神経刺激物質(治療薬や農薬を含むあらゆる神経刺激物質)など様々な外的要因によっても発症リスクが高まる。(略)



自閉症の科学5:妊娠中の炎症が脳に及ぼす影響を探る より


 *IL-16や17は炎症を示すパラメータの一種
 (略)風邪やインフルエンザなど様々な原因で妊婦さんに炎症が起こってしまうと、胎児の脳の発達に影響して自閉症などの発症率が上がることは、多くの妊婦さんとその子供を追跡する調査(疫学的調査)により確かめられています。(略)


  1. ある対象にフォーカスを当てるときに働く領域と脳活動の安定性維持に関わる回路の間の結合性、
  2. 空間的な注意に関わる幾つかの領域間の結合性、
  3. 視覚を介した注意に関わる幾つかの領域間の結合性


がIL-6が高かったお母さんから生まれた新生児では、特に低下することがわかってきました。

 MRI検査と脳の機能検査が集められているデータベースを用いてそれぞれの回路と脳の機能との相関を調べると、今回の研究で明らかになったネットワークの多くが、刻々と入ってくる情報を一時的に維持して、統合するために働いている、「作業記憶:ワーキングメモリー」に深く関わっていることが見えてきました。

 そこで、MRI検査を行った新生児の中から選んだ46人が2歳になるのを待って、作業記憶の検査を行い、特に妊娠第3期のIL-6濃度と作業記憶が逆相関することを明らかにしています。(略)



自閉症の科学13:光遺伝学を使った動物実験 より

(略)研究ではまず、NAcとDRをつなぐセロトニン神経回路が社会性を支配しているか調べている。方法は、DRのセロトニン神経に光で興奮させるチャンネルロドプシンを発現させ、この刺激によりセロトニンがNAcで分泌されると社会性が高まるかを調べている。DR領域に光を当てても、またNAcに来ているDRからのセロトニン神経端末に光を当てても、同じように社会性が高まることから、DRからNAcへ伸びるセロトニンニューロンが社会性を支配する回路であることが確認できる。もちろん、光遺伝学的にこの神経結合を阻害する実験も行い、この回路の働きが落ちると社会性が低下することを確認している。

 次は16p11欠損を再現した自閉症モデルマウスでこの回路を調べている。この遺伝子領域を生後すぐに欠損させると、確かに社会性の低下が見られる。そしてこの症状に対応して、DRのセロトニン神経細胞の興奮が強く押さえられていることがわかる。そこで、この神経を光遺伝学的に刺激してセロトニンを分泌させた時に症状が改善するか調べると、期待通りNAcに来ているDRの端末からのセロトニン分泌を誘導したときだけ社会性が改善する。詳細は省くが、この回路でのセロトニン分泌だけが社会性を回復させる効果があることを様々な実験で確認している。(略)

 結果は以上で、一過性とはいえ、セロトニン分泌回路をうまく刺激できれば、16q11変異を持つ自閉症の社会性を回復させられる可能性を示す重要な結果だと思う。同時に、現在行われているオキシトシンによる治療を、基礎脳科学からに支持している結果だと言える。残念ながら、この研究はセロトニン分泌の社会性への影響は一過性であることを示した。おそらく同じことはオキシトシン治療にも言えるだろう。しかしこのような結果を考慮した上で、さらに有効な治療プロトコルが開発されることを期待したい。(略)



自閉症の科学14: 注目すべき自閉症の遺伝子研究(エクソン4が欠損したCPEB4)より

(略)CPEB4は全てのmRNAと結合するわけではなく、支配するmRNAは3000種類ほどだ。そして驚くことに、これまでのゲノム研究で自閉症リスク遺伝子として特定された遺伝子のmRNAの多くがCPEB4と結合することが明らかになった。すなわち、初めてASDと自閉症リスク遺伝子セットを結合している分子の手がかりが見つかった

 (略)ではASDの人と、一般の人のCPEB4に何か違いがあるのか?もちろん遺伝子自体の変異はないが、CPEB4 mRNAの中の、4番目のエクソンが欠損しているmRNAの比率が、突発性ASDでは高いことが明らかになった。
4番目のエクソンが欠けた遺伝を持つマウスはASDの症状が出る
最後に、人の自閉症に症特異的に見られた4番目のエクソンが欠けたCPEB4遺伝子を導入した遺伝子改変マウスを作成し脳を調べると、多くのASDリスク遺伝子のpolyAが短くなり、タンパク質への翻訳が低下し、そしてその結果マウスが自閉症に似た症状を示すことがわかった。一方、単純にCPEB4を神経細胞からノックアウトしただけでは、このような変化は見られず、エクソン4の欠けたCPEB4が多い時にASDの様な症状が起こることが明らかになった。(略)

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以上、抜粋終わり
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 このうち一時的な対症療法としては、「セロトニンやオキシトシンの分泌を増やす」薬の開発が進んでいます。たとえば日本でも2018年6月、日本医療研究開発機構・浜松医科大学・金沢大学・名古屋大学・福井大学などの共同研究チームは自閉症の対人コミュニケーション障害に対する治療薬として期待されるオキシトシン経鼻スプレーの治療効果を検証しました。

 これによると主要評価項目である「対人場面での振る舞い」には(偽薬投入の対照群と比較して)有意差はなかったものの、服地評価項目である「常同行動」「限定的興味」には有意差が認められました。また「話しかけられる際に相手の目もとを見る時間の比率」が優位に増えました。これは根本治療ではありませんが、症状の改善に役立つものと期待されています。


 一方で根本的な治療となると、妊娠から4歳ぐらいまでの脳回路の形成時期に自閉症の兆候を発見して対処をすることになりそうです。遺伝子操作をするのか、万能細胞で補うのか、薬などで体内環境を変えるのかはわかりません。ただしいずれの場合も「たとえ親の希望であったとしても人間の脳回路形成を他人が操作して良いのか」という倫理的な問題に直面することになると思います。

 脳回路が形成された後に自閉症の治療を行うことは、さらに技術的なハードルが高いことでしょう。しかし最近の科学技術の発展スピードを見ると、それも将来的には不可能ではなくなるような気がしてきます。

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