モノに価格をつけて取引することには、何とも言えない楽しさがあります。
あらゆるものに値段がつけられ、価格が高ければ希少または不足であることがわかります。安ければありふれて過剰であることがわかります。このような価格シグナルによって生産や流通が調整され、経済がうまく運営されるのです。まさに「神の見えざる手」と呼ぶにふさわしいシステムです。
チューリップの球根に対して家一軒ほどもする高値をつける人たちや、火星の土地に価格を付けて勝手に売買する人たちもいます。それが自由主義経済の面白さであり、奥深さなのです。
しかしビットコインなどの「いわゆる仮想通貨」には、ゲーム内のアイテム程度の価値しかありません。それに対して日本円や米ドルと同等の信用を与え、取引しようとする動きはどうかと思います。誰も負債として認識していないものを「通貨」と呼んで、先進国の法定通貨と同格に扱おうとすること自体がすでにヤバいのです。
誰も価値を保証せず、強制通用力を持たず、一般受容性すら怪しく、ガバナンスの主体もなく、投資家保護の仕組みからも外れた電子データを「通貨」と呼んで良いものでしょうか。甘い言葉で資金を誘い出し、詐欺・脱税・不正送金・マネーロンダリング・テロ支援などの犯罪が渦巻く無法地帯に引きずり込もうとしているようにしか私には見えません。
これによって不利益を被る規制当局や政府などは、控えめに警鐘を鳴らしています。しかしその声が取り上げられることは稀です。詐欺商品は多くの場合、実際に被害が出てからでないと動けないのです。
それでも金融や詐欺のことを良く知るプロであれば、人々の財産がそのような世界へ吸い込まれてゆくことを座視できません。これは金融・投資業界の信用にも関わる大問題です。いわゆる仮想通貨の台頭は「通貨発行権や徴税権に対する攻撃」であると認識できない国はヤバいのです。
本書では、以下の3種類の通貨を比較します。
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1.
国が発行する「法定通貨」
2.
企業や地方自治体などが発行する「疑似通貨」
3.
発行体(発行元)を持たない、「いわゆる仮想通貨」
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このうち(3)「いわゆる仮想通貨」については
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A) その価値に何の裏付けもなく、
B) 投資家保護の制度外(=無法地帯)にある上に、
C) 政府の通貨発行権や徴税権を侵害しており、
D) 詐欺や犯罪の温床になりやすい
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ので避けてくださいという結論です。
なぜならその成り立ちや構造を見る限り、
「不正をするな」と求める方が無茶
だからです。
この構造的な欠陥は、2017年6月に「改正資金決済法」が施行された後でも変わりません。
この法律は登録された業者が、いわゆる仮想通貨を「ねずみ講的な投資商品」に使うことは防いでくれるでしょう。しかしその前の段階、たとえば「登録外業者の詐欺」や「発行発掘・取引認証・保管レベルでの不正」を防ぐにはほとんど無力です。
むしろこの法律は、日本政府が「(3)いわゆる仮想通貨」を貨幣として認めたかのような印象を与えてしまいます。良く読むとそんなことはないのですが、大手企業が取引所ビジネスに参入することで安心する人々も多いでしょう。それによって詐欺や犯罪の被害が大きく広がってしまうのではないかと懸念しています。
この本は、投資家が通貨について知っておくべきメカニズムをほぼ網羅しています。
なぜ「いわゆる仮想通貨」がヤバいのか?
改正資金決済法でも埋められない、構造的な欠陥とは何か?
金融や犯罪の専門家たちが警鐘を鳴らすのはなぜか?
次々に押し寄せる「フィンテック時代のデジタル投資詐欺」に引っかからないよう、じっくりと読んでみてください。
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